各 科 の ご 案 内
department
動脈硬化や血栓などで心臓の冠動脈が閉塞することで、心筋への血流供給が不足する病気を冠動脈疾患(虚血性心疾患)と呼び、狭心症、心筋梗塞などが含まれます。
治療には薬物治療、カテーテル治療、手術(冠動脈バイパス術)があり、患者さんの状態に応じた治療が行われます。
当科では、年間に約50例の冠動脈バイパス術を行っております。
胸が締め付けられる、押さえつけられたような痛みがあります
肩、頸が痛む、中には歯や喉が痛むこともあります
心臓は、心筋が正常に活動するため、心臓の表面を通る「冠動脈」という血管で栄養(酸素供給)されています。この冠動脈が狭くなり、心筋への血流量が低下し、酸素不足となることで、胸が苦しくなったり痛くなったりした状態が狭心症です。
冠動脈が完全に詰まってしまい、その先の心筋が壊死を起こしてしまうと心筋梗塞となります。急激な心筋壊死は、突然死も起こしかねない非常に重症な病態です。
冠動脈疾患が進行すると、重症心不全、不整脈、弁膜症、心室瘤など様々な病態を引き起こします。さらに、心筋梗塞によって心筋が壊死すると、突然心臓に穴が空いたり(心室中隔穿孔)、心臓の壁が破れたり(左室破裂)、弁膜症が出現したり(乳頭筋断裂)することがあります。これらは緊急手術を行わなければ生命を脅かす重篤な合併症です。
治療には薬物治療、カテーテル治療、手術があります。
薬物療法(血管拡張薬、抗血小板薬など)は全ての人に行います。
カテーテル治療と冠動脈バイパス術については、どちらを選択するかは、病気の程度と冠動脈造影検査の結果(狭窄した冠動脈の本数、狭窄の位置、狭窄部位の性状など)を中心に、年齢、全身状態、他の疾患の有無、ライフスタイルなどから総合的に判断されます。
私たちの施設では、心臓血管外科と循環器内科と合同で話し合う場を設けており、症例毎にハートチームとして治療方針について検討を行っています。
長所 | 短所 | |
---|---|---|
カテーテル治療 | ・低侵襲で在院日数が短い ・繰り返しの治療が可能 | ・再狭窄 ・不完全血行再建 ・糖尿病や透析症例に有効性が低い ・解剖学的な制約あり |
冠動脈バイパス術 | ・完全血行再建 ・生存率向上に効果あり ・解剖学的な制約が少ない | ・比較的高侵襲で合併症のリスクがある |
日本ではカテーテル治療が盛んで、手術が選択される比率は欧米に比べて低い傾向にありますが、冠動脈バイパス術を選択することは生命予後改善の見地から妥当で、日本循環器学会のガイドラインにおいても推奨されています(安定冠動脈疾患の血行再建ガイドライン 2018年改訂版)。
カテーテル治療は冠動脈の内腔から狭窄部位を直接広げる治療方法ですが、冠動脈バイパス術では狭窄部位を直接扱うことは少なく、図に示すように狭くなったり閉塞したりしている冠動脈の先に別の血管「グラフト」を吻合し、血液の新しい通り道を作ることで血流の少ない部位に多くの血液を流してあげる治療方法です。これにより心筋の酸素不足による症状が改善され、仮に狭い部分が閉塞してしまっても心筋梗塞にはなりません。
冠動脈バイパス手術の際に用いられる「グラフト」は以下のようなものがあります。これらの血管をさまざまに組み合わせて手術を行います。この組み合わせは、患者さんの心臓の状態、年齢、血管の状態などを考慮して決められます。
内胸動脈・・・胸板の動脈(胸骨の両側にある)
橈骨動脈・・・前腕の動脈(主に利き腕でない方から)
右胃大網動脈・・・胃の動脈のうちの一つ
大伏在静脈・・・下肢の内側にある静脈
血管を吻合する際に人工心肺という機械を使用し全身の血液を潅流しながら心臓を止めて行う方法(心停止下冠動脈バイパス術:CABG)と、人工心肺を使用せずに心臓が動いたまま行う方法(心拍動下冠動脈バイパス術=オフポンプ冠動脈バイパス術:OPCAB)とがあります。
日本でも30年以上前から行われ、確立された方法です。
手技としての完遂性が高く、後者に比べ吻合が容易であるというのが特徴です。 人工心肺を使用するため、人体に侵襲のある操作が加わります。
人工心肺を使用しないため、人体への侵襲は少ない術式です。
心臓が動いたままで行うため、手術を完遂するには高い技術を必要とし、心機能が不安定な患者さんには行いにくい方法です。
いずれの方法も一長一短があり、当科ではそれぞれの患者さんにとってより適した方法を選択しています。
心拍動下冠動脈バイパス術の様子
心臓を優しく引き上げ(□の器具)冠動脈が見えるようにし、部分的に心臓の動きを固定します(〇の器具)。△がグラフト(内胸動脈)であり、☆の部分で冠動脈に吻合されています。
冠動脈バイパス術後の3DCT画像
3本のグラフト(△)がそれぞれ右冠動脈、左前下行枝、左回旋枝に吻合されている状態です。