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遺伝するがん

日本人の2人に1人は、生涯のうちにがんを患うと言われています。がんは遺伝的な要因と環境的な要因が複雑に絡み合って発症します。がん患者の約10%は、生まれつきがんになりやすい遺伝的特徴を持っています。全てのがんが遺伝するわけではありませんが、遺伝情報を知ることでがんの予防や早期発見に役立てることができます。ここでは「遺伝するがん(遺伝性腫瘍)」についてご紹介致します。

Q. 遺伝性腫瘍(がん)とは?

がんの発症は、環境因子・生活習慣(食習慣・運動習慣・睡眠など)・加齢・遺伝的要因など様々な要素が関わっています。がん患者さんの約5-10%の方は、遺伝的要因でがんを発症することが明らかになっています。遺伝的要因により発生したタイプのがんを『遺伝性腫瘍(がん)』と呼びます。

Q. がんは遺伝しますか?

がんの大半は、年齢・生活習慣・環境要因などが原因となり発がんするタイプが多く、このタイプのがんは遺伝しないと言われています。一方、上に示した遺伝要因により発生したタイプのがんである遺伝性腫瘍(がん)の多くは親から子へ50%の確率で遺伝します。

Q. 遺伝性腫瘍(がん)の診断はどのように行いますか?

遺伝性腫瘍(がん)の診断には、ご自身の病歴だけでなく、ご家族の病歴(特にがんの情報)を知ることが重要です。この情報をもとに家族歴(家系図)を作成し、遺伝的要因が強いのかどうかを診断します。そして、遺伝学的検査が必要な場合に、どのような検査が適切か、家族の中で誰が最初に検査を受けるか、などを決めていきます。遺伝学的検査は血液検査で行います。特別な処置は必要ありません。

Q. 遺伝学的検査を受けることのメリットはなんですか?

遺伝学的検査を行うことで、「生まれつきにがんになりやすいか」「どのようなタイプのがんができやすいか」「何歳からがんのリスクが高まるのか」「定期的な検診が必要なのか」「何らかの予防策をとることができるのか」などを知ることができます。将来のがんの発症リスクを知り、早期発見・早期治療に努めたり、予防的な手術を行うことでがんの発症リスクを低くすることができます。また、家族と発がんリスクにかかわる情報を共有し、家族の健康管理に役立てることができます。

Q. どのようなときに遺伝性腫瘍を考えますか?

ご自身や血のつながりのある方(両親・子供・兄弟姉妹・祖父祖母・おじおば・おいめい)が下に示す項目のうち、ひとつでも当てはまる場合には、遺伝性腫瘍の可能性があります。

  • 若い時(50歳未満)でがんと診断されたことがある
  • 同じ人が何度もがんを経験したことがある
    (例えば、大腸癌を2回、大腸癌と子宮体癌、両側の乳癌など)
  • 血のつながりのある方の中で、がんになった方が複数いる
    (特に同じ種類のがんの場合は遺伝性腫瘍の可能性が高くなります)
  • 血のつながりのある方の中で、遺伝性腫瘍と診断された方がいる

上記に当てはまる場合は、当科の外来(消化器病センター・「がんとゲノムの相談外来」)へお問い合わせください。

主な遺伝性腫瘍の例(日本国内で比較的頻度の高い遺伝性腫瘍を示します)

スクロールできます
名称原因となる遺伝子関連するがん
リンチ症候群
(Lynch症候群)
MLH1, MSH2, MSH6, PMS2 (EPCAM)大腸がん、子宮体がん、胃がん、
尿路系上皮がん、卵巣がん など
遺伝性乳がん卵巣がん
(Hereditary Breast and Ovarian Cancer; HBOC)
BRCA1, BRCA2乳がん、卵巣がん、前立腺がん、膵がん、 悪性黒色腫
家族性大腸腺腫症
(Familial Adenomatous Polyposis; FAP)
APC大腸がん(ポリポーシス)、十二指腸がん、
胃がん、甲状腺がん など
リー・フラウメニ症候群
(Li-Fraumeni症候群、LFS)
TP53軟部組織肉腫、骨肉腫、脳腫瘍、
副腎皮質がん、乳がん(閉経前が多い) など
カウデン症候群
(Cowden症候群)
PTEN乳がん、子宮体がん、甲状腺がん、
大腸がん、腎細胞がん など
遺伝性びまん型胃がん
(Hereditary Diffuse Gastric Cancer; HDGC)
CDH1びまん型胃がん(印環細胞がん)、
乳がん(小葉がん) など

当科における遺伝性腫瘍に対する取り組み

大腸がん:リンチ症候群(Lynch症候群)

リンチ症候群は、主に大腸癌を発症しやすい遺伝性腫瘍(がん)の一つです。当科では大腸がんの手術を受けられた患者さんの全員に対してリンチ症候群の可能性を調べるミスマッチ修復タンパク(MMR)の免疫染色検査を実施しています。リンチ症候群の可能性がある患者さんに対しては、家族歴の聞き取りを行い、必要に応じて遺伝学的検査をご案内しています。

リンチ症候群の診断がついた患者さんに対して、ご家族を含めた健康管理や遺伝学的検査の実施、計画的ながん検診を実践し、がんの早期発見・早期治療を行っています。詳しくは、当科の外来(消化器病センター・「がんとゲノムの相談外来」)へご相談ください。

*リンチ症候群は、大腸だけでなく、子宮・胃・卵巣・小腸・腎盂・尿管などにがんが発生しやすく、若い年齢で発症しやすい遺伝性腫瘍疾患です。リンチ症候群の診断には、血液を用いて遺伝情報を解析する遺伝学的検査を行います。リンチ症候群の方は、計画的な検診(サーベイランス)を実施することで、がんの早期発見・早期治療が大切です。

乳がん:遺伝性乳がん卵巣がん(Hereditary Breast and Ovarian Cancer, HBOC)

遺伝性乳癌卵巣がん(HBOC)は、若い時から乳がんや卵巣がんにかかりやすい遺伝性の疾患です。ハリウッド女優のアンジェリーナ・ジョリーさんが、同じ体質を持つことから遺伝学的検査を受けHBOCと診断されました。そして、発がんを予防する手術(乳房切除術・卵巣卵管摘出術)を行ったことでHBOCという病気が脚光を浴びました。乳がんを経験した患者さんのうち、約4%がこの体質であることが報告されています。

HBOCの発がんの原因は、BRCA1もしくはBRCA2遺伝子の異常だとわかっています。BRCA1BRCA2は損傷したDNAの修復をする役割を持っていますが、この機能がうまく働かないことで発がんすることがわかっています。HBOCは乳がん・卵巣がんだけでなく、膵臓がん・前立腺がんなどが発症しやすくなります。

HBOCの診断は、乳がんや卵巣がんの診断を受けた場合、保険診療による遺伝学的検査で行うことができます。HBOCの方は、がん発症のリスクを低減できる予防的手術(リスク低減乳房切除術・リスク低減卵巣卵管摘出術)を選択できる場合があります。

以下に当てはまる場合は、HBOCの可能性があるので、BRCA遺伝子検査を受けることができます。詳しくは、当科の外来(乳腺外科)へご相談ください。

  • 若い時(45歳以下)で乳がんを経験した方
  • 60歳以下でトリプルネガティブ乳がん**を発症した方
  • 両側または片側に2個以上の乳がんを経験した方
  • 男性で乳がんを経験した方
  • 乳がん診断時に、卵巣がん・卵管がん・腹膜がんのいずれかを同時に経験した方
  • 乳がん・卵巣がん・膵臓がんの患者さんが血縁者(第3度近親以内)にいる方
    (第3度近親以内とは、両親・子供・兄弟姉妹・いとこ・祖父母・おじおば・おいめい・孫・曽祖父母・大おじ・大おば)

**トリプルネガティブ乳癌は、乳癌の特徴であるホルモン受容体(エストロゲン受容体・プロゲステロン受容体)やHER2(ハーツー)と呼ばれるタンパクの目印が腫瘍に見られないタイプの乳がんです。乳がんの約10-15%に見られます。

症例実績

当院では主に以下の患者さんとそのご家族の診断・治療だけでなく、リスクに応じた検診を実施し、早期発見・早期治療を心がけています。また、臨床遺伝専門医・遺伝性腫瘍専門医・認定遺伝カウンセラーなどと綿密な連携を取りながら診療を実施しています。詳しくは、当科の外来(消化器病センター乳腺外来)にてご相談ください。

  • リンチ(Lynch)症候群
  • 家族性大腸腺腫症(FAP)
  • 遺伝性乳癌卵巣癌(HBOC)
  • リー・フラウメニ(Li-Fraumeni)症候群
  • カウデン(Cowden)症候群
  • ポイツ・ジェガース(Peutz-Jeghers)症候群 など