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心臓弁膜症

当科では、年間に約180例の弁膜症手術を行っており、良好な手術成績を収めています。当科で主に扱っている代表的な弁膜症疾患と弁膜症手術についてご紹介します。

当科で行っている主な弁膜症手術

  • 大動脈弁疾患に対する大動脈弁置換術
  • 大動脈弁輪拡張症や大動脈解離に対する大動脈基部置換術、自己弁温存大動脈基部置換術
  • 僧帽弁疾患に対する僧帽弁形成術、僧帽弁置換術
  • 三尖弁疾患に対する三尖弁形成術、三尖弁置換術
  • 感染性心内膜炎に対する弁膜症手術(大動脈弁、僧帽弁、三尖弁)

心臓弁膜症とは

心臓には「左心房」「左心室」「右心房」「右心室」の4つの部屋があります。それぞれの部屋の間には「弁」が存在します(図1)。これらの4つの「弁」のいずれかに機能障害が生じると、心臓に負担がかかっていくことになります。機能障害には、弁が年齢などの影響で硬くなってしまうことで通過障害を生じる「狭窄症」と、血液が本来流れないはずの方向に逆流してしまう「閉鎖不全症」と呼ばれる病態があります。1つの弁だけでなく、同時に複数の弁に障害が生じることもあり、これらを連合弁膜症と呼んでいます。いずれも構造的な異常が生じているため、根本的な治療は手術以外にありません。

図1:心臓の解剖

心臓弁膜症の症状

弁膜症が進行してくると、以下のような症状が出現することがあります。

  • 以前に比べて息切れしやすくなった
  • 坂道や階段は休み休みでないと昇れなくなった
  • すこし動いただけで動悸を感じるようになった
  • 早足で歩くと胸が締め付けられるような痛みを感じることがある
  • 突然気を失ってしまうことがある

これらのような症状に心当たりがあったら、心臓弁膜症のサインかもしれません。
早めに専門医を受診し、検査を受けてください。
早期診断、早期治療がとても大切です。

代表的な弁膜症

大動脈弁狭窄症
「大動脈弁狭窄症」はどんな病気?

大動脈弁は「左室」と「大動脈」の間にある「弁」で、通常3枚の弁尖から成っています。
弁尖が石灰化を起こし硬くなることで弁の開閉が制限され(図2)、そのことによって息切れや胸痛、失神などを発症する疾患です。 加齢、動脈硬化を原因としたものが多いとされていますが、生まれつき大動脈弁が2枚しかない二尖弁の方は、比較的若年で発症することがあります。

図2:石灰化を起こし、硬化した大動脈弁
「大動脈弁狭窄症」に対する治療は?

大動脈弁狭窄症の標準的な治療方法は、大動脈弁置換術です。外科的大動脈弁置換術(図3)と経カテーテル的大動脈弁植え込み術(TAVI)があります。
また当科では、低侵襲手術(MICS)での大動脈弁置換術も積極的に行っています。

図3:生体弁を用いた人工弁置換術

近年、新しい生体弁である「スーチャーレス生体弁」(図4)が登場し、「手術時間の短縮」、「より良い血行動態」が得られるようになりました。当科でもこの「スーチャーレス生体弁」を使用することが可能です。

図4:Perceval弁
(LivaNova社製品カタログより)

様々な種類の人工弁があり、人工弁毎に特性があるため、それぞれの患者さんに合った人工弁を選択しています。

大動脈弁輪拡張症
「大動脈弁輪拡張症」はどんな病気?

上行大動脈の拡大により大動脈弁輪が拡張している疾患です。大動脈弁輪が拡張していることで大動脈弁閉鎖不全症が発症する可能性や、大動脈が拡張していることで大動脈破裂を起こす可能性もあります。 二尖弁の方やマルファン症候群の方に多く発症します(図5)。

図5:大動脈基部の拡大例
「大動脈弁輪拡張症」に対する治療は?

大動脈弁から拡大した大動脈までを生体弁と人工血管に置き換えてしまう大動脈基部置換術と、自己の大動脈弁を温存して人工血管置換を行う自己弁温存大動脈基部置換術があります(図6-7)。自己弁温存大動脈基部置換術は高度な技術を要しますが、人工弁置換術を回避できることが最大の利点です。当科では、温存可能な病変であれば、特に若年の方には自己弁温存大動脈基部置換術を行っています。

図6:自己の大動脈弁を温存
図7:温存された自己弁
僧帽弁閉鎖不全症
「僧帽弁閉鎖不全症」はどんな病気?

僧帽弁は「左房」と「左室」の間にある「弁」で、通常2枚の弁尖から成っています。 僧帽弁閉鎖不全症は、様々な理由(腱索の断裂、弁輪の拡大、感染性心内膜炎など)から前尖と後尖の接合に不具合が生じ、心臓が収縮する際に「左室」から「左房」に向かって血液の逆流が生じる疾患です。逆流が高度になれば、息切れなどの心不全症状が出現してきます。

「僧帽弁閉鎖不全症」に対する治療は?

僧帽弁を温存し、修復(弁尖の切除&縫合や弁輪リングの縫着)する僧帽弁形成術(図8)があります。弁形成が困難であれば、人工弁(生体弁、機械弁)を縫着する僧帽弁置換術があります(図9)。 近年、小さい傷(右肋間小開胸)で手術を行う低侵襲手術(MICS)での僧帽弁の手術が普及しており、当科でも積極的に行っています。

図8:僧帽弁形成術
図9:生体弁を用いた僧帽弁置換術

人工弁について

人工弁には金属やカーボンでできた「機械弁」と呼ばれる種類(図10)と、牛の心臓を覆っている膜や豚の心臓の弁を加工して作られた「生体弁」と呼ばれる種類(図11)があり、それぞれの特徴があります。
機械弁の耐久性は非常に高く長持ちしますが、血栓や体の組織により弁の動きが制限され機能不全を起こすことがあります。このためワーファリンという血液をサラサラにする薬を、量を加減しながら(定期的な採血が必要です)飲み続ける必要があります。 生体弁は血液が固まって機能不全を起こすことはまれで、基本的にはワーファリンという薬の内服は必要ありませんが、弁そのものが徐々に劣化していくため10年から15年で再度手術が必要になることがあります。

図10:機械弁による弁置換術
図11:生体弁による弁置換術