各 科 の ご 案 内
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動脈とは、心臓が拍動して送り出した血液を全身に運ぶ血管です。心臓から出た血液は、胸部の大動脈に出ていき、腹部の大動脈につながります。大動脈は途中様々な動脈に枝分かれして、頭や手足、内臓のすみずみまで血液を運びます。加齢、高血圧、高コレステロール、喫煙、肥満、遺伝的因子などの危険因子によって、動脈の伸縮力や弾力性がなくなり、そのうち弱くなった動脈の壁が、血流の圧力に耐えられなくなって、部分的に風船のように膨らんだ状態を動脈瘤(こぶ:瘤)といいます。
胸部の大動脈にできた瘤が胸部大動脈瘤で、腹部の大動脈にできた瘤が腹部大動脈瘤です。一定以上に大きくなった大動脈瘤は、血流の圧力に負けて破裂してしまいます。破裂すると大量出血をきたし、大多数が死に至ります。大動脈瘤の直径がまだ小さい場合(直径4cm未満)は、破裂の危険性は低いですが、6cm以上になった胸部大動脈瘤や5cm以上になった腹部大動脈瘤は、破裂の危険性が高まります。また小さな動脈瘤でも形態によっては破裂しやすいものがあります。大動脈瘤は自然に縮小することはなく、平均すると年間に3~5mm程度は拡大していきます。
ほとんどの場合、胸部や腹部の大動脈瘤には自覚症状はありません。時に声がかれたり(嗄声)、腹痛、腰痛、腹満感などを起こす場合がありますが、通常、破裂するまで症状はなく、破裂した時に突然の強い胸痛や背部痛、腹痛や腰痛をきたします。怖いのは、大動脈瘤を縮小させる薬などがなく、破裂を予知することもできないということです。従って、大動脈瘤の破裂を予防するには、手術に頼らざるを得ないのが現状です。
自覚症状に乏しいため、特に65歳以上の男性で、喫煙歴のあるかた、高血圧や高脂血症などの持病を持つかたは検査を奨めます。主にCTスキャンという画像診断機器を使用して、精密検査をします。CTスキャンは、腕からの点滴で造影剤を静脈注射し、検査中に放射線を浴びますが、10分ほど寝ておくだけで検査は終了します。検査後は歩いて帰宅でき、日常生活は直後から可能です。喘息や、薬、食べ物のアレルギーがあるかたは、あらかじめ申し出てください。
大動脈瘤がまだ小さく、破裂の危険性が低いと判断された場合は、定期的なCTで経過を観察していきます。しかし大動脈瘤が大きい、または急速に拡大している場合は治療を奨めます。大動脈瘤の治療は破裂を防ぐことを目的としており、治療法は手術となります。他の持病や、動脈の形態も考えて、それぞれの患者さんに最適な方法を選択します。
大動脈瘤を直接治療するために、胸部の中央を縦に20~30cm程度、もしくは左胸を30~60cm程度切開します。そして大動脈瘤ができている部分を切離し、人工血管に置き換えます。手術は全身麻酔で行い、人工心肺を用いて、一時的に心臓を止めたり、低体温にしたりします。手術は通常6時間から8時間、部位によっては10時間以上を要します。通常、手術後は1~2日間麻酔をかけたまま、人工呼吸器に装着し、集中治療室で管理します。術後14~20日間程度の入院を要します。さらに日常生活復帰のためのリハビリ入院を要することもあります。合併症なく退院できた後は、通常の日常生活は可能となり、特に生活の制限などはありません。
胸部を切開しない、カテーテル治療です。片足の太ももの付け根(鼠径部)を5cm程度横切開、もしくは穿刺し、鉛筆くらいの太さのカテーテル(細長い管)を通して、細く縮めた人工血管を大動脈内に挿入します。この人工血管(グラフト)には金属製のバネ(ステント)が付いており、大動脈瘤部分の血管内に留置、密着することで、大動脈瘤への血液の流入を無くし、破裂しないようにします。このバネ付き人工血管を、ステントグラフトと呼びます。手術は全身麻酔で行い、2時間から3時間を要します。人工心肺などは用いません。翌日から歩行や食事ができます。術後7~10日間程度の入院を要します。退院後は通常の日常生活は可能となり、特に生活の制限などはありません。
大動脈瘤を直接治療するために、腹部の中央を縦に20cm程度切開し、開腹します。そして大動脈瘤ができている部分を切離し、人工血管に置き換えます。手術は全身麻酔で行い、4~6時間を要します。通常、手術後は絶食の期間が3~4日間必要で、術後14日間程度の入院を要します。退院後は通常の日常生活は可能となり、特に生活の制限などはありません。
腹部を切開しない、カテーテル治療です。
両足の太ももの付け根(鼠径部)を5cm程度横切開、もしくは穿刺し、鉛筆くらいの太さのカテーテル(細長い管)を通して、細く縮めた人工血管を大動脈内に挿入します。この人工血管(グラフト)には金属製のバネ(ステント)が付いており、大動脈瘤部分の血管内に留置、密着することで、大動脈瘤への血液の流入を無くし、破裂しないようにします。このバネ付き人工血管を、ステントグラフトと呼びます。 手術は全身麻酔で行い、2~3時間を要します。翌日から歩行や食事ができます。術後10日間程度の入院を要します。退院後は通常の日常生活は可能となり、特に生活の制限などはありません。
久留米大学病院では胸部や腹部の大動脈瘤に対し、患者さんの状態や動脈の形状がステントグラフトに合致すれば、ステントグラフト内挿術をまず考慮します。形状が合致しない場合は、人工血管置換術を考慮します。治療法は他の病気の状況も考えて総合的に判断することが必要です。十分に治療法を検討して、患者さんとよく相談して、適切な治療法を選択します。
ステントグラフトスライド
西日本新聞掲載記事
久留米大学外科では、胸部や腹部の大動脈瘤、もしくは大動脈解離に対するステントグラフト内挿術を多数施行しています。カテーテルで人工血管を大動脈内に留置するこの治療は、通常の開胸や開腹下に施行する人工血管置換術に比べて格段に低侵襲であり、欧米では多くの患者に福音をもたらしてきました。
当科では、九州で最も早い1999年からこの治療を開始しました。当時、本邦には薬事承認を受けたステントグラフトがなかったため、倫理委員会の承認のもと、外科医がステントと人工血管を逢着して作製したものを用いていましたが、2007年にようやく企業製品のステントグラフトが薬事承認を受け、全国的にもステントグラフト内挿術が広がっていきました。早くから多数の経験を有していた久留米大学は、九州の拠点施設として、続々と認可されるステントグラフトの適正使用を九州内外の各施設に指導するという立場を得ています。また九州で唯一、2機種の企業製ステントグラフトの臨床治験を行い、腹部、胸部ともに「九州で初めての手術」として、当時の新聞にも紹介されました。別表のように、1999年から開始したステントグラフト内挿術は、企業製ステントグラフトが使用可能となった2006年からさらに症例数の増加を認めています。興味深いことに、ステントグラフト内挿術が増加しても、開胸、開腹下の人工血管置換術の症例数が減少することなく、全体の症例数が増加していることです。これは、ステントグラフト内挿術を頼りに当科を能動的に受診する、または紹介される患者が、ステントグラフト内挿術の適応とならなくても、当科で人工血管置換術を希望されることがほとんどであるからと考察されます。
このように、他の施設に先駆けて、新しい低侵襲治療をいち早く開始し、経験を増やしておくことは、多くの患者をそれだけ早く救えることにつながると考えています。